導入企業インタビュー
導入企業インタビュー
左から竹ノ内さま、小坂さま、湯淺さま、野﨑さま
KATAruru 立ち上げのきっかけや狙いは?
ーーー 弊社としては今回のシステム開発を2020年12月頃から入らせていただきましたが、その中で「健康経営」という言葉をお聞きし、 そういうマーケットがあるということを知りました。今日は、その一環で新しいメンタルヘルス支援を展開されている「KATAruru」についてお伺いしたいと思っています。 最初に「KATAruru」を立ち上げようとされたキッカケや、いつぐらいから構想をお持ちだったかなどお伺いできますか。
野﨑 構想でいうと2〜3年前ぐらいだと思います。 元々当社ではヘルスケアに力を入れようと言う流れがありました。 いろいろなサービス企画を検討する中で、企業におけるメンタルヘルスの課題に注目し、サービス化できないか、という話になったかと思います。
ーーー カタチになった今でこそ理解しやすいですが、答えがここにあるということは、最初から、見えてなかったんじゃないかと思います。その点で、当初からアバターを使うということは考えられていたんですか。
野﨑 いえ、当初はありませんでした。あれは…東京大学の下山研究室(東京大学大学院 教育学研究科臨床心理学コース 下山研究室)とのつながりから、がスタートだよね?
小坂 そうですね。私がまだ学生だった2019年3月の東京大学主催のシンポジウムで、当社社長の平林が登壇した講演内容の中で、アバター構想について触れたのが最初です。
ーーー プロジェクトはパーソルワークスデザインさん単独のスタートだったんでしょうか?それとも最初から東京大学さんと一緒だったんでしょうか?
野﨑 はい。最初はアバターによるカウンセリングは有効かどうかを、学術的に東京大学さんと協働研究することから始まりました。
アバターについて、こだわりは?
ーーー 2〜3年前というと、我々もちょうどその頃からアバター接客というものを始めたところでした。当時はアバターという概念が今より全然浸透しておらず、 一部、YouTube上でVTuberとして活動される方がいらっしゃる時期でした。我々はそれを接客という現場に広げていきましたが、その時点で周りからのアバターというものへの距離感や、持たれるイメージなどはどうでしたか?
野﨑 アニメの世界と言うか、別の世界のようなイメージはありましたね。映画でも「アバター」というものもありましたから言葉自体に聞きなじみはありましたけど、 実際にそれが何かをするといったところまでは2〜3年前までハッキリとしたイメージはありませんでした。
湯淺 そうですね。見ているものといったイメージがありましたね。
ーーー 研究された中でアバターの見た目もそうですが、他にどういったことにこだわりをもって進めてこられたのでしょうか?
野﨑 見た目で言えば、優しい顔立ちといったものもあるとは思いますが、実際に対面相談を行なっている心理師※の方々の意見では、
服装やメガネをかけている・かけてないでも、人の印象はだいぶ変わってきますので単純にアバターになったということだけではなく、
実際の心理師に近い形にしようといったところが大きなポイントだったと思います。
(※KATAruruで相談を受けるアバター相談員の固有名称)
ーーー アバター心理師にはモデルがあるんでしょうか?例えば、服装のルールとかポイントとか。
小坂 明確なモデルがあるわけではありませんが、基本的に相手にとって侵襲的にならないように、例えば、服装が気になったりしないような印象を持たせることは心がけました。 他には、部屋のインテリアというかアバター以外の背景についても同様に落ち着ける、普通の相談室のように感じられるように設定を考えていきました。
竹ノ内 そこはかなり細かい注文が入りましたね。例えば、窓がないとか。背景がはっきり見えるということがいいわけではない、とよく言われました。
ーーー なるほど、ポイントはそういうところなんですね。服にしても背景にしても、そこが『ノイズ』にならないように、といったところでしょうか?
一同 そういうことだと思います。
バタラクの印象や使い勝手
ーーー 言い換えると、リアルな心理相談の環境にこだわられたということですね。次に、相談者または心理師双方がそのアバターを実際に使ってみて、使い勝手だったり、 持たれた印象などネガティブなものも含めてお聞きできますでしょうか?
野﨑 不思議な感覚がありますね。ビデオ通話とは違って自分の動きがそのまま同じ動きをするというのがとても不思議な感じです。
ーーー アバターの手などは動きませんが、自分の動きと連動しているなというのは体感しやすいということでしょうか?
湯淺 そうですね。他に、一方通行ではない点、自分も動くし、心理師さんも動くというところに距離感の近さを感じる印象があります。
小坂 プレッシャーがかからないという点はあると思います。相手が生映像の心理師だとちょっと身構えてしまったりすることはありますし、そもそもですが、 相手の見た目が怖かったらどんなに内面は違うとしても怖い印象は持ってしまうということはあると思います。KATAruruのアバターは優しい顔をしているので、 皆さん聞き方は基本的に優しく聞かれることが多いんじゃないかな。アバターが聞き方にマッチしているから緊張感なく話が進むというような、気持ちのスタンバイがお互い早くできる感覚があります。
野﨑 生映像の相談では関係性を構築するまでにお互いに警戒して壁ができると言われています。言い方は良くないのかもしれませんが、 アバター同士だと一期一会のような感覚があるので心理師の方からも本質に入るスピードが早い、というコメントを多くいただきます。
湯淺 他に視線のプレッシャーがないというところもあると思います。生映像で対面していると “話さなきゃ” とか “見られている” というプレッシャーがあるんですが、 それは感じずにただそこに居る温かみだけがある、というところは感じられるのもアバターの良さだと思います。
小坂 アバターだと「見られている感覚」がないのが特に不思議に感じますね。画面には大きく映っているし相手の顔も動くのに見られているという感覚は全然しないんです。
竹ノ内 確かに目線は気にならないよね。
湯淺 “言わなきゃ、言わなきゃ” とならずに悩み事とか困りごとに集中して話ができるんじゃないかな。だから本音で話せるというところに繋がっているんだろうなと思います。
ーーー システムの話になりますがバタラクを通じた「KATAruru」の使用感は、自然な会話ができているという感覚なんでしょうか?
竹ノ内 ネットワーク環境の差の問題はどうしても出てきています。現在の課題としては、接続状態が悪くて会話が出来なかったという点がマイナス要因に働いているように見えます。 そこにストレスがないと集中して相談ができるので良い評価がいただけているなという印象です。
小坂 具体的な話でいうと、ここでそういう表情はしないという場面で動きが止まってしまうことはネガティブな印象です。結構顔上げてしまうことが多い感じですね。
竹ノ内 画面の角度によるんだと思うよね。
野﨑 リアルで対面しているわけではないので、アバターの操作上の技術なども改めて必要なんだなといった実感もあります。リアルの面談をこなした人にとってもいきなり話題に入っていくことをアバターでやる上で、 今までとは違う事象とか気の遣い方がどうしても必要になる、そういった部分はやってみて初めてわかったことが結構ありました。
ーーー その辺りで体系化されたポイントなどはありますか?
野﨑 標準的な動きはオペレーションマニュアルを作って心理師の皆さんにお伝えしています。
竹ノ内 タブレットスタンドも導入しています。
ーーー 「話しかける」という部分でいうと「リアルで接客したことがある経験がある人ほど、実はつまずく」という事実は、我々がしてきたアバター接客の収穫にあります。 その点で思うんですが心理師さんにもリアルとオンラインで話の導入の仕方などの必勝パターンみたいなものはあるんでしょうか?
小坂 そこはまだ見えてきてないですね。
ーーー 操作も含めてそこはまだ奥が深い分野ということですか?
小坂 そうですね。対面でする通常の相談スキルをアバター相談でいかに活かせるか、通常の相談がよりできる人がアバター相談もしていくといった段階だと思います。 「傾聴する」というスキルはリアルもアバターも同じなので、操作に左右されずに対応することを意識してもらっています。
ーーー 聴く力はそうなのかもしれませんが、相談する側は話がしやすくなっているということですよね。
一同 それはそうですね。
野﨑 やはり話がしやすくなっているというのはメリットだと思います。一方で、人の動きに連動はするもののちょっとした視線の動きなどはリアル対面ほど読み取れるわけではないので、 これを心理師がどう感じ取ったのかな、というのがわからない。そこはさっき話がでたように導入しやすい反面、欲しい情報が取れないケースもあってノイズにならないこととのトレードオフではあるけど、 どう折り合いをつけていくかという課題はありますね。反対にあえて特徴として残していくのかなどは、もう少し経験が必要なのかもしれません。
体験されたお客様の反響
ーーー 現場から上がってくるKATAruruを使った相談での面白い意見や発見はありますか。
竹ノ内 相談者が見るスマホ画面で大きく表示されるのは心理師のアバターのため、当初から心理師アバターにこだわっていましたが、 実は画面で小さく表示される相談者自身の見え方にこだわっている人が意外と多いことは発見でした。「自分の表示がちっちゃい」だとか「私、動いてないのに動いている」とか「アバターの種類がもうちょっと選べると良い」とか。
湯淺 意外と自分が重要なんだなというところも感じます。
竹ノ内 相談者側に入ってみた時、私はそこまでは自分を気にしていなかったので相談者の皆さんが気にされるのは「心理師はどう反応するか」なんだろうなという風に思っていたんですけど。 あ、これ心理師を気にしてるわけじゃない、自分のアバターのことを言っているんだというのが面白い気づきです。
ーーー それは利用者の声、ということですか?
竹ノ内 そうです、利用者の方なんです。意外でしたね。
野﨑 そういう意味でいうと双方向というのがひとつのポイントだったのかな。私は途中まで自分の顔なんか見えなくていい、相手の顔だけ見れればいいから一方通行で、 と言っていた時期もあったんですが。まあそうはいかないなという意見が思ったよりも出てきまして。あと、おそらく世代によってもいろいろ感じ方は違うのだろうと思っています。 これは間違いなくありますね。アバターがしっくりこないというような話もまだありますが、今の子供たちが10年後を迎える頃にはアバターへの感じ方も当然違ってきますよね、 もっと身近な存在になると言うか。まあ、我々の世代とは全く違うんだろうと想定しています。
ーーー これから伸びていく可能性が高いということですか?
野﨑 要求はどんどん高くなると思うんです。もっと種類はないのか、自分で作れないのか、とか。 もっといろんな要望が出てくることはあっても、アバター自体に拒否感があるというところは少なくなるんじゃないでしょうか。
ーーー アバター時代の可能性はどんどん広がるということですね。
竹ノ内 相談実施後にアンケートを取っていて、その設問の中に「生映像でのオンライン相談よりアバターを用いたオンライン相談の方が利用しやすいと思いますか?」という質問があるんですね。 それによると8割以上の方が「高評価」もしくは「どちらかといえば高評価」と回答していただけていますね。我々が一番大切にした点で手ごたえを感じています。
野﨑 アバター相談では身だしなみを整えなくてもいいだとか、顔を出す必要がないといった面も評価になっていると思います。
ーーー 言い換えれば、アバターは身支度をせずに利用できる「衣装」のような印象もあり、利用者はそういった意味でスッと入ってこられるところもあるとかと思います。その点で心理師さんは相談を受ける際、意識的に服を選んで対応されているんでしょうか。
小坂 人によっては自分の状態を一定に維持するためにその時、毎回同じ服を着るとかいう人もいるんです。変化のない同じ部屋、同じ場所、同じ服装など。その方が相手の変化に敏感になれると言うか。 そういうことを意識されている方は一定数います。
ーーー KATAruruを使った状態は、結果として同じと言えますよね。常に一緒の状態で相談者には向き合えるという。
野﨑 疑ってくる人もいますよ、これアバターは動いているけど本当にそちらでは見えてないんですか?本当に聞こえるんですか?後ろに誰かいるんじゃないですか?とか。
新たに感じられる可能性
ーーー 竹ノ内さんにおっしゃっていただいたような、新たに感じられた可能性などありますか?これは質問の趣旨ともしかしたら逸れるかもしれませんが、 キャラクターの中に入って喋るとそれっぽいことを喋れたりするところがあるんです。ちょっと可愛いキャラクターに中に入ると可愛い声で喋ってみたりするとか。
湯淺 自己表現が広がるっていうことなんでしょうかね。
竹ノ内 まあ、少なくとも心理師はそんなことはやりませんが(笑)。でも確かに、商談時にデモを行うことになり心理師役として心理師アバターで対応したことがあるけれど、その時は自分が選んだアバターのキャラクターっぽい感じになりましたね。 実際の私とは違う、柔らかい感じで話すんですよ。それに引っ張られてしまったということなのかな。
小坂 さきほど話に出た、本題に入っていきやすいというのも同じ理由だと思っています。自分じゃないから話しやすい、普段だったら人に言うのも憚られるような悩みがアバターが喋っているという感覚で出やすくなる。 アバターとはそんな装置、なのだと思います。
湯淺 自分を飾らなくてよくなる。普段だったら自分をよく見せたいから、枕詞を言ったり良い表現をしたりとかがあるけれど、アバターだから関係ない。いい意味で割り切れるという部分に現れるんだと思う。
野﨑 よくある「友達の話だけどね」という言い方をして自分のことをしゃべっているというのと似た感覚かもしれない。
湯淺 でも自分と分かってしまう要素は秘匿性が保たれているから自己表現がしやすい、みたいな。
ーーー なるほど。アバターになることで本来の自分ではない人間に変身できているということかもしれませんね。
湯淺 私は相談者側の方で体験したこととして。お試しという感覚で最初は相談をしていたんですが、思ったより本気の相談をしてしまっていた自分がいるんです。 あれ、こんなこと話してしまった…みたいな。これがアバターの良さなのかな、と今では思います。
小坂 自分もそんな感覚でしたね、相談者側の時は。リアル映像の人に初対面から30分でこんなこと絶対喋らないし、コンプレックスみたいなところが出てくるなど、パーソナリティの部分がポロッと出てくる。 でもKATAruruの中では言っても大丈夫という気分だし、そんな気持ちにはさせられます。それが一番特徴なのかもしれないですね
ーーー 因みにですが心理師さん・相談者さんどちらでもいいんですが、ご自身のアバターをどういう基準で選ばれてるんですか?
湯淺 私は一番可愛いアバター。
小坂 私は一番爽やかじゃないやつ。爽やかなアバターみたいな喋り方はできないかなと思ってしまって。
竹ノ内 でも皆さん、自分に近いものを選んでいる印象ですね。
ーーー 年齢、雰囲気もある程度、自分に近いものを選ばれるということですね。
小坂 何か違和感があるとやりづらさが出ると思う。あくまで自分の分身、みたいな。
野﨑 全然違うアバターを、という要望も出てきそうな気もしますよね。アバターっていうよりはキャラクターとか、動物とか。人間とは違うようなものだと喋る内容も変わっていくのかも知れません。
将来的な発展・展開など
ーーー 最後の質問になりますが、KATAruruからの展開や将来的な構想などあればお聞きできますでしょうか。
野﨑 そうですね。今は「KATAruru」は企業内の相談窓口という位置付けですが、学生向けのサービス展開を考えていきたいです。 また、コロナ禍でのリモート生活などもあって悩みも増えている状況にある小中学校も対象にしていきたいですね。 テクノロジーとしてはKATAruruのまま利用できるので、今後は運用部分をどう固めていくかが課題になりそうです。学生向けにアバターの見た目の問題がクリア出来ても、相談の内容が大きく変化します。 その辺をどう心理師が対応していくのか、というのは別のところで課題があるかもしれません。今は心理相談という形にしていますが、他には運動療法士とか、管理栄養士とかそういう相談にも使えるんじゃないかと。 横展開の広がりはアバターを通じてあると思います。
ーーー 心理相談に限らずアバターを使った相談という点で展開を、と考えられているということですね。
本日はありがとうございました。